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大阪地方裁判所 平成10年(ワ)13346号 判決 1999年6月28日

原告

中山守

ほか一名

被告

井上兼一

主文

一  被告は、原告らそれぞれに対し、金一二七六万三一三二円及び内金一一六四万二一五〇円に対する平成九年一月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らの被告に対するその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その三を原告らの負担とし、その七を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告らそれぞれに対し、金二八八八万九六〇七円及び内金二七七六万八六二五円に対する平成九年一月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  訴訟の対象

民法七〇九条(交通事故、死亡)

二  争いのない事実及び証拠上明らかに認められる事実

(一)  交通事故の発生(甲二)

<1> 平成九年一月二二日(水曜日)午前七時四五分ころ(雪)

<2> 奈良県磯城郡田原本町大字阪手四七六番地先路上

<3> 被告は軽四輪乗用車(奈良五〇そ三三〇〇)(以下、被告車両という。)を運転中

<4> 亡中山実香(平成元年六月一〇日生まれ、当時七歳)(以下、亡実香という。)は、横断歩道上を横断中

<5> 被告車両が、横断歩道上を横断中の亡実香に衝突した。

(二)  死亡(争いがない。)

亡実香は、本件事故により、死亡した。

(三)  相続(甲一)

原告らは、亡実香の父母である。

(四)  本件事故の態様と責任(甲四ないし二〇)

<1> 本件事故の態様

A 本件事故現場は、東西道路と南北道路が交差する交差点である。東西道路は、アスファルト舗装され、平たんであるが、本件事故当時は約三センチメートルの積雪があった。最高速度は、時速四〇キロメートルに規制されている。交差点には信号機が設置されていない。東西道路はほぼ直線で、前方の見通しはよいが、本件事故当時は、西行き車線が渋滞中であり、東行き車線からは右方の見通しが悪かった。

東西道路は、片側一車線の道路であり、一車線の幅員は約三メートルである。南北道路は、一車線の道路であり、その幅員は約三メートルである。交差点内には、南北方向に横断歩道が設けられている。また、交差点の西側には、横断歩道の標識が設置されている。

本件事故当日は、積雪のため、西行き車線は渋滞していた。

B 亡実香は、本件事故当時、小学校一年生であった。

亡実香は、本件事故当日、同じ小学校の生徒らといっしょに、集団で登校し、本件事故現場の交差点にさしかかった。

まず、一人の生徒が、東西道路のうち、西行き車線の渋滞中の車両の間を横断し、道路中央付近に行って、西側を見て、車両が来ていないようであったので、旗を出した。そして、生徒が東行き車線の横断をはじめた。

亡実香が続いて東行き車線を横断しはじめたとき、被告車両が東行き車線を滑走してきて、亡実香に衝突した。

C 被告は、本件事故当日、出勤のため、被告車両で勤務先に向かった。路面には雪が積もっていたが、急ブレーキをかけて車両がスリップするかどうかを試したところ、少しスリップしたが、まっすぐに滑り、ハンドルを取られなかったので、スピードを出さずに、急ブレーキをかけなければ大丈夫だと思い、チェーンを装着しないで、被告車両を運転した。なお、被告は、雪道を走行するのは初めてであった。

本件事故当日の朝は、雪が積もっていたため、車両が渋滞していたし、渋滞を避けて道路を迂回したりしたため、時間がかかり、勤務開始時間にぎりぎり間に合うかどうかというタイミングであった。そのような状況で、被告は、東西道路の東行き車線を走行中、本件事故が発生した交差点にさしかかった。

被告は、時速約三〇キロメートルで走行中、交差点の約二一メートル手前で、交差点内の、西行き車線の渋滞車両の間に傘のようなものを見つけ、人が横断しようとしていると思って、軽くブレーキを踏んだ。

さらに、約八メートル進み、交差点の約一三メートル手前で、東行き車線を子供が横断しているのを見て、強くブレーキをかけた。

さらに、約三メートル進み、交差点の約一〇メートル手前で、被告車両が滑走をはじめるとともに、東行き車線を亡実香が横断しているのを見た。

しかし、ハンドルを切っても車両をコントロールすることができず、約一〇メートル滑走を続け、東行き車線上で、被告車両の前部と亡実香が衝突した。

被告は、横断歩道が設けられているのは知らなかったし、横断歩道がある旨の標識にも気づかなかった。

<2> 責任

被告は、積雪のためスリップするおそれがあるにもかかわらず、チェーンなどを装着せず、安全な速度で走行せず、また、急ブレーキをかけ、被告車両を滑走させて、亡実香に衝突した過失がある。

三  原告らの主張

原告ら主張の損害は、別紙一のとおりである。

四  中心的な争点と被告の主張

(一)  中心的な争点

損害

(二)  被告の主張

<1> 逸失利益は、一八歳の女子平均賃金を基礎収入とすべきであり、生活費控除は五〇パーセントとすべきである。

<2> 慰謝料は、合計一八〇〇万円が相当である。

<3> 自賠責保険金が支払われた日までの遅延損害金の請求は認められない。

<4> 被告は、ほかに、一五〇万〇〇〇〇円を支払っている。

仮に、原告らが本件で請求していない葬儀費に充てられたとしても、相当因果関係がある葬儀費を越える分については、本件で請求されている損害に充てられるべきである。

第三損害に対する判断

一  逸失利益

(一)  原告は、基礎収入について、賃金センサスの女子の全年齢及び学歴計の収入によるべきである旨の主張をする。確かに、その主張には十分な合理性があるが、しかし、一八歳及び高卒の収入によることも十分な合理性があるといえ、後者を採用することにする。

なお、前者の算定方法(ただし、ライプニッツ係数を用いる。)と後者の算定方法との差額は、慰謝料として考慮する。

(二)  生活費控除率は、五〇パーセントとすることが相当である。

二  慰謝料

前記認定の事故態様によれば、亡実香はほかの生徒らと集団で横断歩道を渡っていた。これに対し、被告は、明らかにスリップのおそれがあるにもかかわらず、チェーンを装着しなかったし、速度を調節せず、急ブレーキを踏んで被告車両を滑走させた。しかも、急いでいたためと思われるが、本件事故現場の交差点に横断歩道があることがわからなかった。したがって、被告は、ドライバーとしての基本的な注意義務を怠っているといわざるを得ず、その過失はきわめて大きいというべきである。したがって、亡実香及びその父母である原告らの慰謝料は、これらの事情と前記一の事情を考慮して、後記認定のとおりとする。

三  遅延損害金

交通事故が起きて損害が発生し、その遅延損害金が生じるのであれば、自賠責保険金が支払われ、元本に充当されたとしても、その日までの遅延損害金が生じていることになるから、原告らの請求を理由がないとはいえない。

四  既払い

被告は、既払い分として、一五〇万〇〇〇〇円を支払い、相当因果関係がある葬儀費に充当される分を越える分については、本件の損害金に充当されるべきであると主張する。

確かに、被告が一五〇万〇〇〇〇円を支払ったことは認められる(甲一五)。しかし、葬儀費として支払ったと考えることは十分に可能であるし、仮に葬儀費を越える支払いがあったとしても、被告自らが保険金とは別に見舞金として支払ったと見る余地もあるから、本件の証拠だけでは、本件の損害金に充当されるとは認められない。

五  結論

裁判所が認定した損害は、別紙二のとおりである。

(裁判官 齋藤清文)

10-13346 別紙1 原告ら主張の損害

1 逸失利益 4402万0000円

(1) 賃金センサス女子平均335万1500円

(2) 生活費控除30パーセント(×70パーセント)

(3) 7歳のホフマン係数18.765

2 亡実香の慰謝料 2400万0000円

3 原告ら固有の慰謝料 800万0000円

4 弁護士費用 600万0000円

合計 8202万0000円

既払い(自賠責) 2648万2750円

残金 5553万7250円

5 遅延損害金 224万1964円

自賠責保険金2648万2750円に対する支払日である平成10年11月5日までの遅延損害金

合計 5777万9214円

請求額 原告らそれぞれ 2888万9607円

10-13346 別紙2 裁判所認定の損害

1 逸失利益 1976万7051円

(1) 賃金センサス高卒18歳210万6800円

(2) 生活費控除50パーセント(×50パーセント)

(3) 7歳のホフマン係数18.765

2 亡実香の慰謝料 2400万0000円

3 原告ら固有の慰謝料 400万0000円

合計 4776万7051円

既払い(自賠責) 2648万2750円

残金 2128万4301円

4 弁護士費用 200万0000円

5 遅延損害金 224万1964円

自賠責保険金2648万2750円に対する支払日である平成10年11月5日までの遅延損害金

合計 2552万6265円

認容額 原告らそれぞれ 1276万3132円

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